話し上手な人は、たとえ話も上手です。ここぞ!というときにこそ「うまいこというなぁ!」と言われるようなたとえ話をしたいものですが…なかなか一朝一夕ではできなかったりするんですよね。
そこで今回は、ビジネスマン向けの講演会で「たとえ話の作り方」についても教えている経営コンサルタントの黒須靖史さんに正しいたとえ話の作り方について聞いてみました!
たとえ話には2種類ある
たとえ話にはおもに2種類あります。
- 事例紹介型
- 置き換え・創作話型
事例紹介型
「事例紹介型」とは、伝えたい内容に似た事例を複数例示するタイプのたとえ話です。複数の例を話すことで、その中から一番ピンとくるものを選んでもらうときなどに使います。営業トークなどでよく使われているやり方です。
話したい相手がすでにある程度の知識を持っている場合に有効です。そうでない相手だと「?」となってしまうので注意してください。
<例:営業したいコーヒー豆について「たとえ話」をしたいとき>
「弊社が取り扱っているコーヒー豆がこちらです。スターバックスやドトールのほか、最近話題のブルーボトルコーヒーでも使われているんですよ」
置き換え・創作話型
「置き換え・創作話型」は、伝えたい内容を誰でも理解できる内容に置き換えるタイプのたとえ話です。ただし、すでにある程度の知識を持っている相手に話す場合、少しまどろっこしく感じさせてしまうことがあるので注意してください。
「事例紹介型」とは違い、こちらではより創作性の高いたとえ話をする必要があります。いわゆる「たとえ話」の多くは置き換え・創作話型を指しています。
たとえ話を作るための準備
話す内容の「本質」を見極める
たとえ話を作る前に、まずは伝えたい内容の「本質」について考える必要があります。ここでの本質=最も伝えたい・重要性が高いことを証明できるものを指します。これが間違っていると論理が破綻してしまい、何を言いたいのかわからないものになってしまいます。
本質は「なぜそれを行うのか」「行う理由」を考えてみると、スムーズに思いつきます。たとえば、相手に「報連相」の大切さについて話したいと思ったとき、次のようになります。
・伝えたいこと・・・常に「報連相」を意識することは大切である
・本質・・・・・・・組織が正しい判断をするために欠かせないものであり、緊急時にすぐ対応できるようにするために必要だから
誤った「本質」を見抜く
正しいと思っていた「本質」が、実は間違ったものだった…ということはよくあります。正しいか否かを見抜くためには、あらゆるシーンを想定し、矛盾点や当てはまらない事例をチェックしましょう。
たとえば、前述の「報連相」の大切さについて以下のような内容を思いついた場合。
・伝えたいこと・・・常に「報連相」を意識することは大切である
・本質・・・・・・・「報連相」をこまめにすることで社内コミュニケーションが活発になる。社員同士の連携が強まるから
そもそも「報連相」はビジネス上で大事なやりとりの基礎です。コミュニケーションを目的にしたものではない、という点を指摘できます。相手から「コミュニケーション目的であれば『報連相』である必要はない」「『報連相』よりもランチタイムを設定したほうがコミュニケーションは活発になる」などのツッコミを受けると、とたんに破綻してしまいます。
辻褄が合わないもの・矛盾点を指摘できるものは「誤った本質」です。ほかの案をいくつか考えてみて、相違のないものを見つけられるまでブラッシュアップを重ねましょう。
「たとえ話」を話すときのポイント
たとえ話をするときのポイントをご紹介します。
ポイント1:話し相手の目線に合わせる
どんなたとえ話も、相手の目線に合わせて話さなければ伝わりません。きちんと目線を合わせるためにも、次のポイントをチェックしましょう。
- 相手の職業
- 相手の性別
- 相手の家族構成(既婚・未婚、子どもの有無)
- 相手の年齢
- 相手の趣味
大切なのは、相手にとって「身近に感じる事柄」を探すことです。職業はもちろん、性別や家族構成が違えば、話す内容もそれに合わせます。
中でも、もっとも考慮すべきなのが「年齢」です。相手と年齢が近い場合は問題ありませんが、わりと離れている場合はいわゆる「ジェネレーションギャップ」などで、たとえ話を作るのが難しくなることがあります。
- 【複数人を相手に話す場合】
複数人を相手に話すときは、集まった人たちと自分との最大公約数となる共通点を探します。
たとえば、複数の経営者を相手に話すときは、経営に絡めたたとえ話のほうが身近に感じてもらいやすくなります。逆に、一般的な会社員の場合は、経営の話よりも「ムカつく上司の話」をしたほうが共感を得やすくなります。
もしも、これといった共通点を見つけられない場合は、幼少時代など、誰もが経験しているであろうことにたとえてみてください。
ポイント2:相手に合わせて、話の構成を変える
相手の目線に合わせて「身近に感じる事柄」を見つけ、それに関連するたとえ話を作ったら。次は、話の構成を考えましょう。
たとえ話には、下記のような2パターンがあります。
- 結論(=本質)を話してから、たとえ話をする
結論から先に話し、あとからたとえ話をするパターンです。相手がある程度の知識を持っている場合、有効です。
たとえば、部下に「報連相」の大切さを伝えたい場合、
「何事においても、『報連相』は大事だよ。たとえば、自衛隊ではわざわざそのための時間を割いていて、さらに一番下の階級の隊員もみんな報告するように義務付けられているそうだよ。そうすることで、上官たちからは見えにくい部分もクリアにして、何かあったときにすぐ対応できるようにしているんだ」
となります
- たとえ話をしてから、結論(=本質)を話す
たとえ話をしてから、結論を話すパターンです。相手が知識を持ち合わせていない場合、有効です。
たとえば、前述と同じく、部下に「報連相」の大切さを伝えたい場合、
「自衛隊ではわざわざそのための時間を割いて、さらに一番下の階級の隊員もみんな報告するように義務付けられているそうだよ。そうすることで、上官たちからは見えにくい部分もクリアにして、何かあったときにすぐ対応できるようにしているんだ。それくらい、『報連相』は大事なんだよ」
となります。
ポイント3:たとえ話の長さを1~2分に留める
たとえ話に限らず、だらだらと長くなるような話は相手もダレやすく、本当に伝えたい「本質」がわかりにくくなってしまいます。間延びしない程度(1~2分)で切り上げられるように意識しましょう。
【実践編】身近な事柄をたとえ話にしてみよう!
以下、たとえ話をするときのおさらいです。
- 相手の職業や家族構成などを意識し、身近に感じられる事柄にたとえる
- 相手の知識の有無に合わせて、たとえ話の構成を変える
- たとえ話は1~2分に留める
ここでは実際に会社での「報連相」の大切さをゴルフにたとえる例を紹介します。
STEP1:ゴルフのなかで、「会社」に相当するものを考える
まずは、「ゴルフ」のなかで、「会社」に相当するものを考えます。
会社もゴルフもグループ、集団の集まり、行動します。会社をゴルフにたとえた場合、一緒にホールをまわるキャディ=社員にたとえることができます。
STEP2:報連相をするべき相手を考える
会社では、基本的に「報連相」は上司にします。
【会社での上司の役割】
- 部下の教育(マナーやルールを教える)
- 仕事のやり方を教える
- 取引先やクライアントの情報(対応方法)を教える
ゴルフに当てはめた場合、上記の役割を果たす人=キャディです。ちなみに、キャディのおもな役割は次のとおりです。
【キャディの役割】
- ゴルフマナーやルールを知らせる
- コ―ス情報(攻略法)を教える
つまり、ゴルフでのキャディ=会社での上司となり、「報連相」すべき相手はキャディと言えます。
STEP3:「キャディ」「報連相」でたとえ話を作ってみる
「キャディ」「報連相」でたとえ話を作ってみます。たとえば会社の接待ゴルフで以下のような相談をしたとします。
- 接待ゴルフのため、相手に勝たせる必要がある
- そのため、相手を勝たせやすいホール情報を知りたい
すると、キャディから「比較的、相手がいい成績を残しやすいコース」について教えてくれます。先にこちらの意図などを共有することで、最善の選択ができるというわけです。
この流れをもとに、「報連相」の大切さをゴルフにたとえた場合、次のようになります。
「『報連相』っていろんな場面で大事なんだ。たとえば、接待ゴルフに行くとする。接待ゴルフというと接待先に勝たせる必要があったりするんだけど、自分たちの力だけじゃうまくいかなかったりするよね。そこで、キャディさんにその旨を相談するんだ。すると、おすすめのコースを教えてくれる。きっと、ホールのどのあたりで手を抜くといいのか…なんてポイントも教えてくれるはず。『報連相』を駆使することで、そういった状況もうまく切り抜けられるんだ」
STEP4:間違った「たとえ話」になっていないかを確認する
間違った「たとえ話」=伝わらないたとえ話になっていないかどうかを確認しましょう。作ったたとえ話に対して反対意見を考え、論破されるか・されないかをチェックします。
反対意見を論破できないものは、間違ったたとえ話です。何か別のたとえを考える、もしくは「本質」が間違っていないかどうかを再確認するなどしてやり直しましょう。
【番外編】たとえ話のストックを作っておこう
ご紹介してきたとおり、たとえ話はすぐに作れるものではありません。ビジネスでは以下のような内容について話す機会が多いので、そのときのためにたとえ話をストックしておきましょう。
- 時間の大切さ
- 納期の大切さ
- お金の大切さ(給料、経費)
- プレゼンで大切なこと
ストックできるほど、いい話を思いつかなかったら?
たとえ話をいくつかストックしておいた方がいいことはわかるけれど…連続してポンポンと思いつくのは慣れていないと難しいものです。思いつかない!という人は、過去に自分が「嫌だなぁ」と思ったことを書き留めておくことから始めましょう。
人は、嫌だと感じた思い出のほうが記憶に残りやすく、かつ思い出しやすい傾向があります。また、なぜ嫌だと感じたのか=本質を見極めやすいものです。嫌だと思った状況などを書き留めておけば、あとでじっくり思い返すことができます。
嫌だと思ったことを思い返すときは、次のポイントについて考えてみましょう。
- 「嫌だ」と思ったこと、そのときの状況・環境(=事柄)
- なぜ嫌だと思ったのか、不快に感じた部分(=本質)
- どういった状況であれば「嫌だ」と思わなかったのか(=伝えたいこと)
仮説をたてたあとは検証を繰り返し、「本質」に迫れるよう日々メモを書きとめ、訓練していくことが大切です。
今回お話を伺ったのは、こちら!
黒須靖史さん
経営コンサルタント。株式会社ステージアップ代表取締役。中小企業診断士として、企業の組織パフォーマンス向上のためのコンサルや人材育成、経営者からの相談に対応する。「たとえ話がうまくなると、相手に話を理解してもらいやすくなります。そればかりか、物事に対して『なぜそれが必要なのか』ということを考えるようになるので、自分自身の理解も深まるんですよ」と、黒須さん。
(image by amanaimages)
(ライター:高根ちさと)