フランスパンを焼き始めるとカッコいいクープを開かせたくなります。試行錯誤を繰り返すうちに筆者独自の方法で画像のようなパンを安定的に焼くことができるようになりました。
これらのパンは
- 材料の小麦粉は日本製粉の強力粉イーグルを使用
- 実質最高温度250度の電気オーブンと旧式の電気オーブントースターで焼成
- クープナイフは事務用のカッターで代用
して焼いたものです。
今回は様々な工夫をしてたどり着いた「ワイルドなクープが入ったフランスパンが焼ける裏ワザ」をご紹介します。
クープとクープナイフの基礎知識
クープとは
パン表面の切り込みのことです。主に加熱の効率を上げるためのもので、大根に隠し包丁を入れたり、煮魚の表面に切り込みを入れたりするのと同じような工夫です。
切り込みを入れたときは1本の細いラインに過ぎませんが焼きあがったときは平坦だったパン生地表面が立体的な構造変化を起こし独特な外観を呈するようになります。
クープナイフとは
クープナイフは薄い刃でないと目的を達することはできませんが、どのような刃物であってもクープを切れば、それはクープナイフと呼ばれます。本来は特定の商品を意味しているものではありません。
パン職人さんが男性のひげそり用のカミソリを先端に取り付けたものを使用している場面をテレビ番組などで見ることがあります。
筆者は事務用のカッターナイフを使用しています。(錆止めの機械油が塗られているので中性洗剤で洗浄してから使用しています)
美しいクープ、5つの要素
クープについて理解を深めることにより、美しいクープとは5つの要素から成り立っていることに気づきました。
1:クープの大きさと配置
ほぼ均等な紡錘形の模様が中心線(長軸)上に並んでいます。
2:クープの開き紡錘形が上面の短軸方向に広がっている
3:クープの盛り上がり
紡錘形の内側が上方向に向かって盛り上がっています。
4:クープの割れ
紡錘形表面が不整、イレギュラーに割れています。
5:エッジが立つ
紡錘形の内外部にはっきりとした段差ができています。
まとめると次のように言えます。美しいクープの要素が満たされるパンとはメリハリが効いた立体的な構造を持つ魅力的な外観を魅せてくれるものです。それはギリシャ彫刻のように目鼻立ちがくっきりとした彫りが深い容貌を連想させます。
クープが開くメカニズム
お餅を焼いた時のことを思い出してみましょう。お餅をついてから数日経つとお餅全体は乾燥しますが、表面と内部では乾燥の度合いが異なります。固い殻とやや軟らかい内部から成り立っています。
加熱によって内部の生地が膨らみ殻を突き破って出てきます。
フランスパンでは、内部の生地が膨らんであらかじめ表層に入れたクープが広がり立体的な変化を起こします。
これがクープが開くメカニズムです。
クープ切りが難しい理由
このように加熱によって立体的な変化を起こす生地は「殻」と「内部生地」2つのパーツから成り立っています。
パン生地は捏ね上げた時点では均一ですが、数時間の工程を経てクープを切る時には、お餅と同じように「殻」と「内部生地」に分かれています。パン生地の「殻」は非常に薄く、また内部生地と変わらないくらい軟らかい状態です。
はさみでコピー用紙は容易に切れますがティッシュペーパーは切りにくい。「薄く」「軟らかい」ものは切りにくいのです。
これがクープ切りが難しい理由です。
パン職人さんは経験技術によって「薄く」「軟らかい」ものにクープを切ることができますが、アマチュアが同じ事をすることは困難です。
用意するもの
- 二次発酵終了したパン生地
- 事務用小型カッター
- 自作アルミプレート
天ぷらガードをオーブントースターの天板に合わせて切り出したもの
- オーブントースター
- オーブンレンジ
- トング
- サラダ油 大さじ1(クープに塗って高温にする目的ではなく、カッターの刃の滑りを良くするために使用します。)
- 打ち粉(小麦粉) 適量
裏ワザ解説
ワイルドなクープを開かせるために筆者がたどり着いた結論は2つあります。
その1:生地を「クープを切りやすい状態にすること」
クープを切る作業は「ほんの浅く引っ掻く程度に、紙を剥ぐように切り込みを入れる」と表現されます。パン職人さん達はさっと撫でるような手つきで瞬間的にクープを切ります。
アマチュアは中々そのように出来ません。通常の家庭用レシピの手順で作った生地に「撫でるようにクープを切って」も生地に切り込みが入らなかったり、柔らかい生地が引攣れてしまいパン職人さん達と同じような結果とはなりません。
そこで筆者は、「もっとよく切れるナイフはないのか?」「確実に切り込む特殊な技術があるのだろうか?」と考え始めクープの迷路に迷い込んでしまいました。
様々な試行錯誤によってたどり着いた結論は発想の転換、生地を「クープを切りやすい状態にすること」です。
そのことを気づかせてくれたのはパン作りと並行して行なっていたお菓子作りでした。クッキーやパイ生地、ドーナツ生地が扱いづらくなったら冷蔵庫や冷凍庫に入れて扱いやすくする。これを応用しました。パンでも同じようにしてみれば良いと考え実行したところ上手く行ったのです。
少し焼成した状態では更に切り込み易くなりことが分かり、「紙を剥ぐように切ること」が簡単にできるようになりました。
その2:クープの形が決まる焼成開始5分は高熱で焼成する
オーブンレンジ内での焼成過程を観察しますと、クープが開きパン全体が大きく変化するのは焼成開始後数分程度であり、それ以降の変化はほとんどありません。
この初めの5分間高熱で加熱するとクープが大きく開き、内部が盛り上がり、エッジが立つのですが、家庭用電気オーブンの火力では限界があります。なにより容積が小さいために生地を入れている間に余熱した内部温度はあっという間に下がってしまいます。
このデメリットを解消するために熱源が近くにあるオーブントースターで初めの焼成をしてみたところ、非常に効果的であったので工程に加えることにしました。
裏ワザの手順
「用意するもの」を準備しオーブンレンジ(250から300度で余熱開始)しておいてください。
STEP1:1回目のクープを切る
10分放置してください。ここでクープが開きます。
クープ入れ直後です。
10分後の変化です。この後、下のアルミごとオーブントースターに入れます。
STEP2:オーブントースターで120秒焼成する
120秒焼成したのちのパン生地です。
STEP3:2回目のクープを切る
青ラインが2回目クープを示しています。
透けて刃が見えるくらい薄く、紙を剥ぐように切り込みます。
2回目の切り込みが終わった後の状態です。
STEP4:オーブンレンジで焼成する
自作アルミプレートからトングで余熱してあるオーブンレンジの天板に移動させるます。アルミプレートごと移しても構いません。250から300度で20分焼成します。
途中で天板の前後を返します。
フランスパン道を極めるために
ご紹介した技法で焼成したパンです。焼成途中で再度クープを入れるため通常レシピのものと比較して乾燥が早いので、早めにお召し上がりください。クラスト(表面)がしっかりしているのが特徴の焼き上がりです。
今回は「ワイルドなクープが入ったフランスパンが焼ける裏ワザ」をご紹介しました。
(image by 筆者)