初めての留学・初めてのホームステイ
2002年8月末、大学2年生だった著者はニューヨークに英語を学びに1ヶ月間の短期留学をしました。学校はマンハッタンに有り、ホームステイ先はマンハッタンから電車で川を越えたクイーンズという地区に有りました。
ホームステイ先は語学留学をした学校と提携している家庭の中から、事前にアンケートのあった留学生の趣味や興味のある事と合致する家庭を選んでくれているようでした。
著者のステイ先
著者がステイした家は閑静な住宅街の中にあり、白くて大きな3階建ての家でした。ホストファミリーと著者が1階部分と2階部分で生活し、3階には学校の先生をしているという男性が住んでいました。
著者は2階の角の一部屋を借りて住んでいました。
ホストファミリーは40代のパパとママ、そして小学生の子供が3人という5人家族でした。事前に「猫が好き」とアンケートで答えていたせいもあってか、猫を2匹飼っている家でした。
大問題の前兆
その一
ある晩、皆が寝静まった頃に部屋のドアをノックする人がいました。深夜で、しかも思い当たる人物もいなかったので恐る恐る返事をするとホストファザーでした。
「暑いだろうと思って扇風機を持ってきた」
そういって扇風機を届けてくれたのですが、深夜だったので正直怖かったです。
その二
ホストマザーと子供たちは22時には就寝してしまうため、気付くと良くホストファザーと二人きりでリビングに残されるという事がありました。
初めのうちは日本の事を話したり、アメリカと日本の違いについて深く話す良い機会だったのですが、滞在してから1週間目くらいから手を握られたり、ウィンクをされる様になり、なんとなく変だなと感じるようになりました。
気づいてからは極力二人きりにならないように部屋に早めに戻ったり、家族が寝静まった深夜に帰るようにしていました。
その三
滞在3週間が過ぎた頃、家族が寝ているだろう23時過ぎに帰宅した日の事です。ホストマザーが用意してくれていた夕食を一人で食べ、お皿を洗っていました。すると、ホストファザーが2階から降りてきて、突然後ろから抱き付かれました。
「Only 20 years old. Amazing!(まだ20歳、驚きだ!)」
どういう意味で言ったのかは分かりませんが、恐怖でとっさに逃げました。
この日以来ホストファザーに対する不安感はピークに達しましたが、夫婦仲を壊したくもなかったのでホストマザーにも相談できず、滞在も残り僅かだったために我慢する事に決めました。
ついに・・・
帰国前日。
著者はホストマザーに「写真を現像したいんだけど、家から一番近いドラッグストアはどこか?」と尋ねました。
ニューヨークで現像するとサイズが日本よりも大きいのと、色がキレイに出ていたので、全部の写真をニューヨークで現像したかったのです。
するとホストマザーは「ここから車で15分のところに早く現像してくれるところがあるから、そこに行くと良いわ」と、こちらの返事も待たずに車の運転できるホストファザーを呼び、なんと二人きりでドラッグストアまで行く事になってしまったのです。
断わる勇気も無く、助手席に乗りドラッグストアへ連れて行ってもらいました。
「滞在はどうだったか?」とか「何が一番楽しかったか?」とかホストファミリーらしい質問や会話で無事に目的地に到着し写真を出したのですが、問題は帰り道にありました。
「パパ、帰る方向が家と逆じゃない?」と質問する著者に、「せっかくだから二人で遊園地に行こうと思って。」とホストファザー。
時刻は20時を回ったところで、離れた場所にある遊園地は到着する頃には確実に閉園する時間だと感じました。
おかしいと思った著者は、勇気を振り絞って大声で叫びました。
「嫌だ!家に帰りたい!」
するとホストファザーは、「明日お前は日本に帰る。そしたらもう2度と会えなくなるかもしれないんだぞ!もう少し二人きりでいさせてくれ!」そう叫び返しました。
著者は怖くなって、それからは「パパなんて嫌いだ!私は家に帰りたいんだ!家に戻って!」しか叫びませんでした。
結局途中でUターンして家に戻る事が出来ましたが、ホストファザーが帰ると納得するまでは車内は叫びあいでした。
最後に
日本に帰国する日の朝、ホストファザーは謝って来ました。
その姿がなんとも悲しくて、著者も「嫌いだ!」と叫んだ事を謝りました。
著者も一晩色んな事を考えていました。
ホストファザーとの間には色々と嫌な事もありましたが、それ以上に子供達と一緒に動物園に連れて行ってくれたり、著者と共通の趣味である映画や音楽やカメラについても自分のコレクションを見せてくれたり、髪の毛を編みたいと言った著者の為にお店を探して黒人街だったにも関わらず連れて行ってくれたり、楽しい事もたくさん経験させてくれていました。
ホストファザーを嫌だと思うようになったきっかけは著者自信にも有ったのではないかと、帰国前夜の出来事で考えたのです。
「嫌な事は嫌」と自己主張出来なかったせいで、どんどん嫌な気持ちが大きくなっていったような気がします。
- 英語が分からないから
- 相手が察してくれないから
そんな理由でちゃんと対話する事から逃げていたんだと気付きました。
これが出来ていれば最終日に大喧嘩にならずに済んだのではと思います。
英語を学ぶ事ばかりに必死になっていて、人間関係まで頭が回っていなかったようです。
ホストファザーとも最後は和解し、滞在から1年後、2年後と家族に会いに行きました。その時にはきちんとお互いに自己主張をしながら話が出来たように思います。本当は優しくて良いお父さんだった事に気付けました。
本来なら留学生を受け入れる側としては有ってはならない出来事なんだろうと思いますが、ホストファミリーも同じ人間です。
もし言葉の通じる日本人同士ならまず自分の気持ちを伝えたと思います。それは海外であっても同じ行動をするべきだったんだと思います。
海外では特に曖昧な態度を取ると自分も相手も嫌な気持ちになるんだという事をこの一件から学びました。
これからホームステイを経験する方へのアドバイスは、思ったことはしっかりと伝えるという事です。
言い争いのように発展してしまうかもしれませんが、自己主張でぶつかる事は悪いことではありません。
相手の意見もしっかり聞くと、相手の文化も分かってきます。しっかりと意思表示をして文化の違う人たちと交流をしてみて下さい。海外がもっともっと好きになれると思います。
(photo by 著者)