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女性のふりをしているのに要注意! 高校古文『土佐日記』読解のポイント

仮名文字で書かれ、日本最古の日記文学作品と言われているのが『土佐日記』です。女性仮託で書かれたこの作品は、女流文学の発展に大きな影響を与えました。しかし、なぜ女性のふりをする必要があったのでしょう?

作者について

紀貫之(きのつらゆき)

平安前期の代表的歌人であり『古今和歌集』の中心的撰者です。『古今和歌集』には、仮名文字で書かれた仮名序と漢文で書かれた真名(まな)序の二つの序文があり、仮名序は貫之によって書かれたものです。

『古今和歌集』は醍醐天皇の命により紀友則(きのとものり)、紀貫之、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、壬生忠岑(みぶのただみね)の4人が撰集した最初の勅撰和歌集です。貫之が書いた「仮名序」は仮名文字で書かれた最初の本格的な文学評論として高く評価されています。

61歳のときに土佐守(今でいう高知県知事)として赴任。30代半ばで『古今和歌集』の撰者として活躍し、多くの歌合にも参加した一流歌人で、その輝かしい業績と名声と比べると、官位の方は振るいませんでした。

歌合(うたあわせ)とは、歌人を左右同数選んで出場させ、題を決めて一首ずつ詠ませ、その詠んだ和歌の優劣を決めます。これに選ばれることは歌人の名誉です。

おおまかな内容

旅日記

作者・紀貫之が土佐守の任期を終え、京都の自宅に帰り着くまでの55日間にわたる旅日記です。一日も欠かさず書く日次(ひなみ)という形式で、57首の和歌と歌論が含まれています。

平仮名は女文字

男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり。

この一文から始まる作品の叙述の主体は実作者の貫之ではなく、ある「女」という体裁をとっています。「男も書くとかいう日記というものを、女である私も書いてみようと思って書くのだ。」と宣言することによって、書いたのはあくまで一人の女性なのだと思わせようとしています。

作者を女性に仮託することによって、女性を装って書かれた文章です。現代で言うところのネットオカマに近いです。

この作品が書かれた平安前期、平仮名はまだ「女手(おんなで)」と呼ばれ女性が使う文字でした。『古今和歌集』の仮名序を書いたときに、感情を自由に表現できる和文の可能性に気づいた貫之が、どうしても仮名文字による作品を書きたいと思ったとしても不思議ではありません。しかし、仮名文字はまだまだ女文字といわれる時代だったので、女性のふりをしたと考えられます。

業務日誌ではなく日記文学

男性も和歌を書くときは仮名文字を使っていましたが、日記は漢文で書くものでした。

当時の社会通念によれば、日記というのは、公的立場の男性が政務や行事の記録を漢字・漢文体で書く業務日誌的なものでした。そうした既成概念を打ち破るために、作者・貫之は個人の感情を書き綴る「日記文学」という新しいジャンルを創造しました。しかし、公的立場の男性では制約があるので、仮名・和文体で書くために私的立場の女性のふりをしたのだと思われます。

亡くなった娘への哀惜

都へと おもふをものの 悲しきは かへらぬ人の あればなりけり

現代語訳:京都で生まれ、土佐に連れてきた娘が急死してしまい、一緒に帰ることができないのが悲しい。

この和歌は貫之本人のものとして書かれていますが、このような私的感情を日記に書き綴るのは、公的立場の男性には許されませんでした。そうした亡き娘を悼む母性心理に通じる心情を書き綴るのにふさわしい主体は女性であり、ふさわしい文体が仮名・和文体であったことから女性仮託という手段をとったのだと考えられます。

文体

仮名・和文体

仮名文字を使うことによって、微妙な心情や情景を生き生きと描き出した和文体です。

読解のポイント

一流歌人・紀貫之が書いた作品なので、和歌の内容理解は重要になります。また、文中に用いられている対句などの表現技法などにも注意して読みましょう。

中心となるのは、土佐国で亡くなった愛娘への哀惜の情ですが、全体としては暗い話ばかりではなく、ユーモアに満ちた明るい内容になるよう工夫されています。

平易な文体で書かれているので、「係り結び」などの文法を学ぶにも適した作品だと言えます。

おわりに

他人が詠んだ和歌だけでなく、自分が詠んだ和歌まで「女」のふりをした自分が批評している ― 一流歌人・紀貫之の和歌を、一流の評論家・紀貫之が批評しているということが、この作品の一番の魅力であると筆者は思います。

時代を先取りしたネットオカマとも評される貫之が、「オネエ言葉を使って書くとき、どんな顔で書いていたんだろう?」などと想像しながら読むのも楽しいかもしれませんね。

(image by amanaimages)

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