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少年向けの教訓書!説話文学「十訓抄」の読解ポイント

鎌倉時代の説話文学「十訓抄(じつきんせう)」を読解するにあたってのポイントをご紹介しましょう。

説話文学と「十訓抄」

説話文学は、平安時代後期に「今昔物語」があらわれ、鎌倉時代に最も盛んになります。「十訓抄」の他に「宇治拾遺物語」「古今著聞集」「発心集」「沙石集」などが編まれました。

これらは、庶民に仏教を広めたり、生活の指針を与えたりする目的をもっています。また、庶民の生活に題材をとった説話が多く見られます。

「十訓抄」は1252年に成立。編者は北条氏に仕えた六波羅二臈(じろう)左衛門入道であるという説が有力です。

日本・中国・インドの勧善懲悪を主題とする説話約280編を様々な書物から選び、題名からも分かるように、10種類の道徳に分類してあります。

年少者向けの教訓書にすることを明確な目的としているのが大きな特徴です。

例文

白河院の御時、九重の塔の金物を、牛の皮にて作れりといふ事世に聞こえて、修理したる人、定綱朝臣(さだつなのあそん)、事にあふべき由(よし)聞こえたり。

仏師なにがしといふ者を召して、「たしかにまこと空ごとを見て、ありのままに奏せよ」と仰せられければ、承りて上りけるを、なからのほどより帰り降りて、涙を流して、色を失ひて、「身のあればこそ君にも仕へ奉れ。肝心失せて、黒白(こくびやく)見え分くべき心地も侍らず」といひもやらずわななきけり。

君きこしめして、笑はせ給ひて、ことなる沙汰もあらで止みにけり。

時の人、いみじきをこのためしにいひけるを、顕隆卿(あきたかきやう)聞きて、「こやつは、かならず冥加(みやうが)あるべき者なり。人の罪蒙(かうぶ)るべき事の罪を知りて、みづからをこの者となれる、やむごとなき思ひはかりなり」とぞほめられける。

まことに久しく君に仕え奉りて、事なかりけり。

  • 白河院(1053-1129):第72代天皇。上皇となり1086年に最初の院政を開始。
  • 九重の塔:白河院により建立された京都の法勝寺境内にあった塔。寺自体、現存せず。
  • 定綱朝臣:藤原定綱。「朝臣」は敬称。四位の人の場合、姓名の下に付けた。
  • 事にあふべき:処罰されるだろう。
  • 仰せられければ:「仰せ」は尊敬の動詞。「られ」は尊敬の助動詞「らる」の連用形。「仰せられ」は尊敬語を重ねる最高敬語。最高権力者であった白河院への敬意であることがうかがわれる。
  • 仕へ奉れ:「奉れ」は謙譲の補助動詞。
  • いひもやらず:よどみなく言えずに。
  • 笑はせ給ひて:「せ」は尊敬の助動詞「す」の連用形。「給ひ」は尊敬の補助動詞。これも最高敬語。「~せ給ふ」の形は必修。
  • ことなる沙汰:格別の処置。
  • あらで:なくて。「で」は打ち消しの助詞。
  • をこ:愚か者。
  • 顕隆卿:藤原顕隆。白河院の側近。「卿」は敬称。参議または三位以上の人の名に付けた。
  • 冥加:神仏の加護。
  • 人の罪蒙るべき:人が罪を負うようになる。

解釈

白河院の御代に九重の塔の(先端の)金物を牛の皮で作ったという噂が世間に広まり、修理をした人である定綱朝臣が処罰されるという話が聞こえてきた。

(白河院は)仏師の某をお呼びになり、「しっかりと(うわさが)本当か嘘かを見てきて、ありのままに申し上げよ」とおっしゃったので、承知して(塔に)登ったのだが、中ほどから降りてきて、涙を流し、青くなって、「この身が無事であればこそ、院にもお仕え申し上げられるのです。余りに恐ろしくて、真偽を見分ける心地ではございませんでした」とろくにものも言えず、震えていた。

院はお聞きになって、お笑いになり、格別の処置もなく、そのままになってしまった。

当時の人々は、とんでもない馬鹿の見本だと言ったのだが、それを顕隆卿が聞いて、「そいつは、必ず神仏の御加護がある者だ。人に罪を負わせるような行ないの罪深さを知って、自分から馬鹿者の汚名を着たのは、並外れた思慮である」とお褒めになった。

(仏師は)本当に長い間院にお仕えして、何の問題もなかったのである。

読解のポイント

塔の先端に紛い物を使えば、やはり処罰に値するでしょう。しかも、それが牛の皮というのでは、寺では殺生が禁じられているのですから、罪は一層重くなると考えられます。

ところが仏師は、定綱が処罰されないようにと思い、臆病者のふりをして、途中で塔から降りて確認を避けたのです。白河院もどうも仏師の意図を見抜いたようで、笑ってすべてを不問に付します。

顕隆も確かな洞察力の持ち主であることがうかがわれます。

人に罪を負わせるようなことはするなという教訓が読み取れますが、登場人物の言動の描写を通して語られているためか、押しつけがましいところが余りないと言えましょう。

むしろ、仏師や白河院、顕隆の人間味が感じられる読後感のいい話に仕上がっています。

この話は「十訓抄」の中では比較的よく教材として取り上げられています。短いわりに登場人物が多いので、混同しないように丁寧に読みましょう。

また、複雑な敬語を勉強する格好の教材でもあります。敬語を理解すれば、登場人物の区別は容易になります。

おわりに

いかがでしたか。

説話なんてお説教だから興味ない、という人もいるかもしれません。しかし、芥川龍之介が創作の素材を説話に求めたことは有名です。

大作家にインスピレーションを与えた、人間味あふれる興味深い説話も数多くありますので、食わず嫌いをしないで1度読んでみてください。

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