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『古本説話集』を読むポイント

古本(こほん)説話集』は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて編まれた多くの説話文学の一つです。ここでは、試験問題としてもしばしば取り上げられる話を紹介しつつ、作品全体の特徴にも触れていきましょう。

『古本説話集』について

『古本説話集』は、長く埋もれていたところ、1943年に東京の個人の蔵書から発見されました。題名は発見後の命名で、作者も不明です。平安末期から鎌倉初期にかけて成立したと推定されています。

全2巻、70話から成ります。上巻46話は王朝文化を代表する歌人にまつわる風流な話が中心です。下巻24話は仏教のご利益を説く話です。両者が対等に扱われていることが一つの特徴です。『今昔物語集』『宇治拾遺物語』と共通する話が多く収録されています。

例文

今は昔、木こりの、山守に斧をとられて、わびし、心憂しと思ひて、つ
ら杖をつきてをりけり。山守見て、「さるべきこと申せ。とらせん」と言
ひければ、

 あしきだになきはわりなき世の中によきをとられて我いかにせん

とよみたりければ、山守、返しせんと思ひて、「うう、うう」とうめきけれど、えせざりけり。さて、よき返しとらせてければ、うれしと思ひけりとぞ。

人はただ歌をかまへてよむべしと見えたり。

  • 山守に斧をとられて:「山守」は山の番人。おそらく木こりが盗伐しようとしたので、斧を取り上げたのでしょう。
  • つら杖:ほおづえ。
  • さるべきこと:しかるべきこと。(斧を返してもらうのに)相応のこと。
  • とらせん:返そう。
  • あしきだに~:歌の中で「あしき=悪しき」の反対語の「よき=良き」を持ち出して対を作っていますが、「よき」は古語で「斧」も意味しますので、掛詞にもなっています。
  • わりなき→わりなし:つらい、苦しい、ひどい。
  • あしきだに:類推を表す助詞。~さえ。
  • 返し:返歌。
  • えせざりけり:「打ち消し表現(ざり)」で不可能を表します。「え」は副詞。
  • かまへ→かまふ:用意する。

解釈

今となっては昔のこと。木こりが山の番人に斧を取り上げられて、困ったなあ、たまらないなあと思って、頬杖をついていた。番人がそれを見て、「(返してほしいなら)何かそれ相当のことを言え。(言えたら)返そう」と言ったので、

悪い物でさえないと困るのが世の習いなのに、良い斧を取られて、私はどうすればいいのだろう

と詠んだので、番人は返歌をしようと思って、「うう、うう」とうめいたが、できなかった。そこで斧を返してやったので、(木こりは)うれしく思ったそうだ。

人はただ歌を(ふだんから)準備をしておいて詠むべきだと思われる。

解説

この木こりの話は上巻に収録されています。歌をめぐる話ですから、それがふさわしいのですが、ここには身分の低い人しか登場しません。他の話には紀貫之、和泉式部、赤染衛門など著名な歌人が登場するのに、なぜでしょうか。

それはやはり初心者向けの教訓を述べるためでしょう。すなわち、歌が出来たから、斧を返してもらえたという歌の功徳と、最後の一文に表れた普段からの心がけです。

上巻の話は、優雅なものが中心で、必ずしも教訓的な性質をもっていないのですが、ここではその性質が明確に出ているようです。

このような「歌が身を助ける」話は本書以外にも存在します。

なお、この話は『宇治拾遺物語』にも収録されています。

鑑賞

木こりの話は、当時の貴族たちの考え方を知らないと、何が何だか分からないと思います。いい歌を詠めば「盗み」を許してやるという発想など現代にはないのですから。

それにしても、木こりがこんな技巧的な歌を即座に詠めたとは、信じられない思いがします。ひょっとすると、この話は完全な創作なのかもしれません。

しかし、たとえそうだとしても、規則などよりも、歌のうまさの方が価値があるという風潮がどこかにあったからこそ、生まれた話ではないでしょうか。そこに華やかだったころの貴族文化のおおらかさを感じるのもいいかもしれません。

おわりに

古文を勉強する理由の一つは、当時の人々の考え方や感じ方などを知ることです。木こりの話でも、今では失われたものに触れることが出来たのではないでしょうか。様々な古文に出会って、世界を広げていくことを願っています。・・・それは、試験対策にもなりますよね。

(image by 足成)

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