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杜甫の代表作『春望』のポイント

杜甫の漢詩「春望」は古来大変有名です。あの松尾芭蕉も『おくのほそ道』でこの詩を引用しています。

特に冒頭の「国破れて山河在り」の一節は、耳にしたことのある人が多いでしょう。太平洋戦争後や東日本大震災後にその一節を思い浮かべた人は多かったそうです。ここではその『春望』全体について勉強しましょう。

白文

春望 杜甫

国破山河在
城春草木深
感時花濺涙
恨別鳥驚心
烽火連三月
家書抵万金
白頭掻更短
渾欲不勝簪

書き下し文

春望 杜甫

国破れて山河在り
城春にして草木(そうもく)深し
時に感じては花にも涙を濺(そそ)ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火(ほうか)三月(さんげつ)に連なり
家書(かしょ)万金(ばんきん)に抵(あた)る
白頭掻(か)けば更に短く
渾(す)べて簪(しん)に勝(た)へざらんと欲す

解釈

春の眺め  杜甫

国の都は破壊されたが、山や河はもとのままだ。

長安の城壁の中にも春は訪れ、草木が生い茂っている。

この時勢に胸は騒ぎ、花を見ても涙が流れ、

家族との別れは恨めしく、鳥の声にも心が揺れ動く。

戦いののろしは3か月も続き、

家族からの手紙は黄金の山に等しい。

白髪頭をかきむしると、髪が抜けてさらに少なくなり、

すっかりかんざしもさせなくなりそうだ。

注と重要句法

  • 国:都の長安のこと。
  • 城:これも長安のこと。(長安は城壁で囲まれていました。)
  • 時:時勢。(当時の長期に渡る内乱状態を指します。)
  • 別れ:疎開した家族との別れ。
  • 欲不勝→勝へざらんと欲す:「欲」は返読文字。「ざら」は打ち消しの助動詞「ず」の未然形。(「未然形+ント欲ス」の形で、「今にも~しようとする」という意味を表します。)
  • 簪:かんざし。(当時男性も冠を髪にとめるために使っていました。)

詩の背景

「春望」は757年の作品です。当時、安史の乱(755-763)と呼ばれる大反乱が起こっていて、唐は混乱の極みにありました。杜甫は長安で反乱軍に軟禁され、家族は地方に疎開していました。

鑑賞

激動の世の中と常に変わらぬ自然との対比。作者の限りない不安や焦りと家族への思いを感じ取りましょう。

詩の形式と技法

「春望」は、五言律詩です。律詩は、八句の詩です。二句ずつ次のように名前が付いています。

  • 第一句・第二句=首聯(しゅれん)
  • 第三句・第四句=頷聯(がんれん)
  • 第五句・第六句=頸聯(けいれん)
  • 第七句・第八句=尾聯(びれん)

押韻

五言詩は偶数句末に押韻します。「春望」では「深」「心」「金」「簪」です。「金」が違うと思う人もいるでしょう。

しかし、ローマ字で書きますと、「shin」「shin」「kin」「shin」となり、「in」の部分が等しいので押韻になっているのです。

押韻とは、詩の決まったところに、同じまたは類似の音の言葉を置いて、リズム感を出す技法です。

対句

律詩では、頷聯(三句と四句)、頸聯(五句と六句)が対句になるという規則があります。『春望』では、さらに首聯(一句と二句)も対句になっています。対句になっていることは、内容だけでなく、返り点の有無や位置からも分かります。

首聯にはともに返り点はありません。頷聯ではともに一番目と四番目の字にレ点が付いています。頸聯ではともに三番目の字に二点、五番目の字に一点が付いてます。

対句とは、同じ形式で、補い合う内容の句が二つで一組になったもののことです。
対句を理解するには、「菜の花や 月は東に 日は西に」(与謝蕪村)という俳句の太字部分がいい実例です。

作者

杜甫(712-770)は唐の詩人です。長安で仕官を求めていましたが、安史の乱をきっかけに各地を放浪し、舟中で病没します。誠実な人柄で、同時代の李白と並んで中国史上最高の詩人と仰がれ、「詩聖」とたたえられています。

松尾芭蕉は『おくのほそ道』の冒頭で、「古人も多く旅に死せるあり」と書いていますが、杜甫はその「古人」の一人とされます。

おわりに

いかがでしたか。『春望』は確かに杜甫の代表作ですが、これ以外にもまだまだ多くの優れた作品があります。興味をもったら、どうぞ読んでみてください。

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