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「堤中納言物語」読解のポイント

長編には手が出ないけど、短編ならなんとか、という人にぴったりなのが、最初の短編集「堤中納言物語」です。作品の背景や内容を、有名な「虫めづる姫君」の冒頭と一緒にご紹介しましょう。

「堤中納言物語」について

「源氏物語」以降、「狭衣物語」「夜半の寝覚」「浜松中納言物語」「とりかへばや物語」などの長編が書かれましたが、いずれも「源氏物語」の亜流にとどまっていました。これは平安時代後期の貴族社会の衰退の表れとされています。そのような物語群の中で10の短編から成る「堤中納言物語」は異彩を放っています。

成立時期は平安後期以降とされ、それ以上に詳しいことは分かっていません。作者は、1編のみが判明していて、他は作者や執筆時期もまちまちのようです。「堤中納言物語」という題名がついた理由も謎となっています。そういう名前の人物は登場しないのです。

他の物語が情愛を重んじているのに対し、「堤中納言物語」は笑い・皮肉・奇抜さなどを特色としています。例えば、毛虫を可愛がる常識外れの姫の話、間違えて姫の代わりにその祖母を連れ出してしまう男の話、恋人の訪問に慌てて白粉の代わりに眉墨を顔に塗ってしまう女の話などが収録されています。

次に、「虫めづる姫君」の冒頭をご紹介しましょう。

虫めづる姫君(抜粋)

蝶めづる姫君のすみたまふかたはらに、按察使(あぜち)の大納言の御むすめ、心にくくなべてならぬさまに、親たちかしづきたまふことかぎりなし。

この姫君ののたまふこと、「人びとの、花、蝶やとめづるこそ、はかなくあやしけれ。人はまことあり。本地(ほんぢ)たづねたるこそ、心ばへをかしけれ」

とて、よろづの虫のおそろしげなるをとりあつめて、「これが成らむさまを見む」とて、さまざまなる籠箱(こばこ)どもに入れさせたまふ。

「中にもかは虫の心ふかきさましたるこそ心にくけれ」とて、明け暮れは、耳はさみをして、手のうらにそへふせてまぼりたまふ。

若き人びとはおぢまどひければ、男(を)の童のものおぢせずいふかひなきを召し寄せては、この虫どもをとらせ、名を問ひ聞き、いまあたらしきには名をつけて興じたまふ。

解釈

蝶を愛する姫君のお住まいの近くに、按察使の大納言の娘御がいらっしゃった。目を引く人並みはずれたご容貌で、両親はこの上なく愛情を込めてお育てになっていた。

この姫がこうおっしゃる。「人々が花や蝶などを愛するのは、空しいし、おかしいのです。人にはまことの心があるのです。ものごとの本質というものを突き止めようとする心構えこそすばらしいのです」

ということで、色々と恐ろしげな虫を集めて、「これが育つのを見ましょう」と、様々な虫かごにお入れになった。

「中でも毛虫の賢そうに見えるところなど魅力的ですね」と、朝から晩まで、額の垂れた髪を耳にはさんで、毛虫を手のひらに這わせて見守っていらっしゃった。

若い女房たちはひどく怖がったので、男の子でもの怖じしない卑しい身分の者をお呼びになっては、虫を手に取らせ、名を尋ね、新しいものには名前を付けて、面白がっていらっしゃった。

  • 按察使:官名。奈良時代に置かれ、国司を巡察した。のち名称のみとなった。
  • 心にくく→心にくし:心引かれる、上品だ。
  • なべてならぬ→なべてならず:普通ではない。
  • かしづき→かしづく:大切に育てる、面倒をみる。
  • のたまふ:「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。
  • 本地:本体、本質。
  • 心ばへ:心のありさま。
  • 籠箱:底が板、他の面を透き通る絽や紗で作った箱。虫かごにした。
  • かは虫:毛虫。
  • 耳はさみ:額に垂れた髪をかき上げて耳にはさむこと。不作法とされた。
  • そへふせ→そへふす:手のひらに乗せて這わす。
  • まぼり→まぼる:見守る。
  • おぢ→おづ:怖がる。
  • いふかひなき→いふかひなし:卑しい。
太字は重要語です。

鑑賞

引用部分のあとも、この姫君の非常識ぶりと周囲の騒ぎや困惑が描かれています。本当にこんな人がいたのかどうかは分かりませんが、もしいたら、確かにそうなるだろうと思わせる描写のうまさです。ひょっとすると作者は、貴族社会の常識に懐疑的な態度をとっていた人なのかもしれません。

読解のポイント

姫君の言動を通して、姫君の人柄や考え方を把握しましょう。

姫君に対する周囲の反応から、当時の貴族社会の常識や価値観を読み取りましょう。

「堤中納言物語」は貴族社会が主な舞台ですので、人間関係を把握するため、敬語を理解します。「虫めづる姫君」では、姫君には「たまふ」「のたまふ」「召す」と尊敬語が使われていますが、女房には使われていません。身分の差がはっきり表れています。

おわりに

いかがでしたか。「虫めづる姫君」の続きが読みたくなった人はいないでしょうか。なんと、この姫君、「風の谷のナウシカ」の「ナウシカ」のモデルなのだそうです。

「堤中納言物語」の各作品はとても短いので、興味を感じた人は、辞書と現代語訳を横目に、ぜひ読んでみてください。

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